妖怪の金貸し ~見越入道~
妖怪の金貸し ~見越入道~
18世紀後半に登場した黄表紙には、「化物」たちを主役としたものが多くみられる。
例えば、寛政12年(1800)に刊行された十返舎一九作・画の黄表紙『化物見世開』は、江戸から追い払われ、箱根の先に住むことになった化物たちが、そこで新しい商売をはじめる、という話である。
このように、すでに時代遅れとなり、落ちぶれた化物たちが、往時の勢いを盛り返すために悪戦苦闘する、とい話は黄表紙のなかに多くみられる。
これは、江戸などの大きな都市では妖怪がすでにリアリティを喪失していたことを反映しているといえる。
化物たちが「箱根の先」(つまり、江戸文化圏の外)に居をうつしているのも、当時のことわざ「野暮と化物は箱根の先」をふまえたものである。
箱根の先で化物たちの親玉・見越入道がはじめる商売も、人間のそれとは一風変わっている。
まずは生臭い風を吹かせるための鞴(ふいご)を発明して売り出すが、まつたく売れずに大損する、その後はお金をもらって人間を脅かす仕事をはじめ、稼いだ金で柳の下の権利を幽霊から買い、往来の人を脅かして金銀を奪い取る仕事をはじめる。
これが成功し、大儲けした見越入道はそれを元手に化物相手の金貸しになるのである。
ここにえがかれているのは、もはや恐ろしい存在ではなく、世俗にまみれた滑稽な存在としての妖怪たちである。
異様な姿の化物たちも、人間と同じように苦労をし、失敗を繰り返しながら日々を暮らしている。
いわば化物たちは、人間のカリカチュア(戯画)として描かれているのである。
江戸時代の人々は、そんな化物ちの姿を親しみのこもったまなざしで見つめながら、「馬鹿な奴らだ」と笑い飛ばしていたのであろう。
「妖怪の金貸し」という存在があったことに、思わず笑ってしまいました。
人間を脅かして稼いだお金で、柳の下の権利を幽霊から買い取るという発想にも、ビックリ。
でも、脅かして人間らお金を稼ぐのは、よくないですよね。
ま、本業である人間を驚かすというのにたち帰ったということには、なんか、考えさせられます。