江戸時代の鬼神論 ~実在は認められないのに社会的現象としては存在する~
江戸時代の鬼神論
中世までは、さまざまな怪異は神仏からのメッセージとしてとらえれ、それがいかなる事態の予兆であるのかを解釈することが、怪異にたいする「知的」な対応であった。
神祇官や陰陽寮といった公的機関で行われる卜占は、そうした解釈の技法を体系化したものであったといえる。
このような世界認識のもとでは、妖怪はまさに実在するものと考えられ、さまざまな歴史記録のなかに疑義をはさまぬ形でその出現が記された。
しかし近世に至り、江戸幕府は怪異に対する公的な解釈のシステムを放棄してしまった。
つまり、怪異や妖怪は、公的には存在しないものとされたのである。
この時はじめて、「実在は認められないのに社会的現象としては存在する」妖怪に対して、あらためて知識人からの知的な言及が必要になったのである。
ここに妖怪研究、あるいは妖怪についての思想の出発点をみいだすことができる。
妖怪などを含む民間の俗信についての儒者による議論は、「鬼神論」とよばれている。「鬼神」とは、神や妖怪、幽霊や先祖の霊などの超自然的存在を総称する儒学の用語である。
『妖怪学の基礎知識』より