赤鬼・青鬼 ~生まれる前~
説話文学に見られる妖怪
古代から中世にかけて成立した説話文学にも妖怪が登場する。
『日本霊異記』や『今昔物語集』をはじめ、古代から数多くの説話集が編集された。これらのなかには、様々な妖怪たちが描かれている。
古代の鬼のイメージ
古代から日本の妖怪の中核を担ってきたのは、鬼である。その概念は幅広い。
「鬼」という漢字が伝来する以前から「オニ」なるものは存在し、平安時代にはさまざまな話で内容豊に語られている。
『日本霊異記』の鬼
九世紀前半に成立したと思われる『日本霊異記』には現代の鬼とかけ離れた鬼の説話が幾つか収録されている。
「女人、悪鬼にしられて食らはるる縁」(中巻三十三)
大和国十市郡庵知の村(あむちのむら)の東あたりに住む娘のもとに男が訪れて一夜を過ごすことになった。翌朝、部屋をみると、女の頭と指一本が転がっていたのである。男が持参した絹織物は獣の皮に、それを運んできた三台の車は木に代わってしまったという。
最後にこの怪事件を「神怪」「鬼啖」ともいうとある。つまり神の不思議な所為とも、鬼がたべたのだともいうのである。どちらとしても、男が何者か知れず、後に人々がそう解釈したに過ぎない。
この時代の鬼というのは、このように原因不明の怪異をなすものの全体を包括するような漠然としたものであったようである。
角や牙があって、虎の褌をして、体の色が赤かったり、青かったり、そういうステレオタイプの鬼はまだ形成されていなかった。
『今昔物語集』にみる鬼の・多様性
『今昔物語集』には鬼の登場する話が七〇~八〇(日本の鬼の話しは五〇話余り)程見られる。一話一話見てみると、鬼の属性がいかに多彩であるか知ることができる。
『今昔物語集』には多種多様な鬼がでてくるが、基本的には鬼は人間を食べてしまう恐ろしい魔物である。しかし、その形態や能力はさまざまである。
橋の上に現れた鬼の話(巻二十七・十三)
ある武士が肝試しに、渡ろうと踏み入れると渡きれないという安義(あき)の橋に行くことになった。橋の途中に苦しそうに口を押える女がいる。男がそのまま通過しようとすると女が迫ってきた。男は観音菩薩に救いをもとめながら、懸命に馬に鞭打って走り続け、どうにか鬼を振り切って橋を渡り切った。
その鬼の姿は、顔は朱色で円形、目は一つで琥珀色、身長は九尺、手の指は三本、爪は五寸ばかりで刀のように鋭利、肌の色は緑青色、頭部は蓮のように乱れている。
その後、この鬼は、武士の家を突き止めてやってきた。渡辺綱に片腕を切られた鬼が、後日、綱の母親に変身して家を訪れ、切られた腕を奪い去ったということがあった。
このように、物の気には自由自在に姿を変え、場合にによってはただの人間ではなく、ターゲットとなった人物の関係者そっくりに身を変える能力も持っている、誠に高度な知識を備えた存在だったというよう。
このように、鬼は変化自在でさまざまな能力をもつ者として『日本霊異記』や『今昔物語集』に見られるのであった。