狸の説話 ~犬に化けの皮剥がされた狸~
狸の説話
狐にくらべて、古代中世における狸の話しは数が少ない。
『古今著聞集』巻十七には狸が化け、人を害する話が載っている(六〇二、六〇三、六〇七、六〇八)。『今昔物語集』にも「狐狸」が人に悪戯を働くものであることが触れられている(巻十七、三十三)。
室町時代の御伽草子『十二類絵巻』には十二支の動物たちに復讐するために、狸が鬼に化ける。
『古今著聞集』にも軒ほどの大きな妖怪に化けた狸の説話がある(第六〇七話)。
狸が女に化ける霊は室町期にもあるが(『看聞日記 かんもんにつき』応永二十四年五月八にちの条)、説話・物語として狸が狐のように人間の男と契るものは見られない。
狐とは多少化ける対象に違いがみられるようである。
化けそこないが笑話とされることも多い。『十二類絵巻』『獣太平記』では鬼に化けたものの、犬に見破られてしまう。
『看聞日記』にも周囲の人間には気づかれなかったが、犬に正体を暴かれてしまう。
「狸の腹鼓」や「鹿待つ所の狸」など、狸は変化するものであるが、狐ほど恐ろしいものとしててはみられておらず、むしろ滑稽味のある妖怪説話のキャラクターとしてあつかわれることが多かった。
近世の代表的な妖怪絵巻『稲生物怪録 いのうもののけろく』では狸の化けるさまざまな妖怪は娯楽性が豊であり、落語の「化け物使い」もまた然りである。
同様に主人公をさまざまな妖怪になって驚かせる物語絵巻に『大石兵部物語』があるが、妖怪に化ける狐は主人公を恐怖させ、愚弄する性格をもっていて、それらとは対照的である。
『妖怪学の基礎知識』要約