妖怪 ~江戸の博物学~
妖怪を、あつめてならべてかんがえて
ー江戸風俗の妖怪研究 江馬務 『日本妖怪変化史』ー
近代的妖怪研究の始祖最後の1人は、風俗史学の江馬努である。当時の風俗史学は、陋習(ろうしゅう)・迷信などとして退けられていた江戸文化の事物を集めて「前近代」を再考する学問で、江戸の博物学を継ぐ学問であった。
それゆえ江馬の分類は「妖怪」と「変化」を分ける。
後者は狐狸や幽霊のように「正体」があり化けるもの、前者は後者以外の、化けずとも異形のものの総称である。図像をベースとした妖怪の容姿への注目は、円了・柳田にはなかった視点である。
柳田が対抗心を燃やしたのは円了の妖怪学ではなく、江馬式の妖怪研究だったはずだ。
江馬の妖怪研究は、柳田の眼には「常民」の心意から離れた都市知識人の創作をももって妖怪を語るものと見えたことであろう。
しかし江馬の本は版を重ね、風俗史学者兼民俗学者を自認する児童文学者である藤澤衛彦が継いだ。
藤澤もまたヴィジュアルを効果的に使った妖怪本をいくつも出した。江馬・藤澤の妖怪研究は、確実に後の妖怪イメージを形成したのである。
参考図書 江馬務『日本妖怪変化史』中央公論新社 2004年(初版は1923年)